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世界デザイン会議 東京2023向けエクスカーションツアー造成事業

日本の伝統とモダンデザインの系譜を知るユネスコ創造都市 金沢ツアー



はじめに

実に34年振りに日本で開催された世界デザイン会議 東京2023(以下WDA2023)の公式エクスカーションとして、去る2023年10月30日~10月31日にかけて、石川県金沢市を中心に開催したデザインツアーについて紹介します。

世界デザイン機構※(WDO)主催のWDA2023は、公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会※(JIDA)もボードメンバーになっており、世界32の国と地域から実に192人のデザイン関連者のみならず、建築、サイエンスなど幅広いジャンルの専門家が集まり、メインテーマである「DESIGN BEYOND(デザインの向こう側)」をテーマに、2023年10月27日~28日までの3日間にわたり東京で開催されました。

WDA2023開催に合わせて様々なエクスカーションが企画されていましたが、その企画の全てが東京都内で完結していたことに、地方の一デザイナーとしてまた、2019-2023にJIDAの理事を務めていたこともあり、大変危機感を覚えました。世界各国からこれだけ幅広いクリエイターが集まるにも関わらず、都内でのエクスカーションだけでは日本のデザインの本質や精神性は理解していただけない。また日本開催の意義も弱いのではないか。そんな危機感から当ツアーを企画しました。


世界デザイン会議 東京2023の様子


当ツアーは、金沢で地域振興を目指す認定NPO法人趣都金澤のメンバーや、JTB金沢市支店および金沢彩の庭ホテルのご協力により実現することができました。

一般的なエクスカーションは、観光拠点を点で巡るのが主流ですが、当企画では、日本の精神性や歴史、伝統工芸などの日本文化への理解をより深めてもらうため、一般のツアーには無いストーリー性と体験、地方での人材交流を通じて、日本のデザインの本質を感じ取って帰国してもらうことを目指しました。

参加者は、アンバサダーとしてWDA委員長であり株式会社GKデザイン機構 代表取締役社長 CEOの田中一雄氏にお願いし、アメリカ・エストニア・フィンランド・南アフリカのWDA参加者から5名と、国内からの参加希望者3名を加えた合計9名が参加しました。WDA2023閉会後の疲れも残る中、参加者には東京から新幹線で2.5時間掛けて金沢にお越しいただき、金沢で日本のモダンデザインの系譜を学ぶストーリー性のあるツアーに1泊2日でご参加いただきました。



ツアー概要

今日の日本のモダンデザインの礎となっている日本の哲学・禅・伝統工芸などへの理解を深めてもらうべく、日本を代表する工業デザイナー 柳宗理や、仏教哲学者 鈴木大拙、生涯の親友であった哲学者 西田幾多郎にゆかりのある施設が、実に金沢とその近郊に集積していることから、それらの施設を点ではなく日本のモダンデザインの系譜という線でつなぎ、また風光明媚な日本の地方都市である金沢の歴史と合わせて巡って頂きました。


卯辰山工芸工房 視察の様子


まず初日には金沢のものづくり文化の原点でもある工芸(KOGEI)を知るべく、卯辰山工芸工房の視察からスタートしました。川本館長による加賀藩、前田家の歴史から工芸の歴史を紐解き理解を深めました。


鈴木大拙館 視察の様子


その後、『ZEN(禅)』の理解を深めるべく、世界的に知られる仏教哲学者である鈴木大拙の足跡を残す鈴木大拙館を訪問。彼らと同じく金沢にゆかりのあるモダニズム建築の第一人者、谷口吉生氏の設計による禅の世界感に酔いしれました。偶然にも、企画展が鈴木大拙と柳宗悦(柳宗理の父親で民藝という言葉の生みの親)との関係を展示しており、良いタイミングで本ツアーの理解が深まったのではと思います。



その後、兼六園・金沢21世紀美術館を2チームに別れ訪問し、夕食は兼六園内にある兼六亭にて、金沢を拠点とするクリエイターとの交流や、芸妓や茶道などの文化体験も実施し、日本の文化や精神性に理解を深めて頂きました。


兼六亭にて文化体験や交流
兼六亭にて文化体験や交流

二日目には、先の鈴木大拙の親友でもある哲学者 西田幾多郎の足跡をたどるべく、金沢の隣のかほく市にある西田幾多郎記念哲学館へ。安藤忠雄の建築と合わせて日本の哲学に理解を深めて頂きました。


西田幾多郎記念哲学館にて
西田幾多郎記念哲学館にて

その後日本で唯一砂浜を走行できる千里浜を経由して、新キャンパスに移転したばかりの金沢美術工芸大学を訪問しました。山崎剛学長による金沢美術工芸大学の紹介と、同大学に収蔵されている平成の百工比照※をご紹介頂きました。



最後に、金沢で育まれたモダンデザインの原点ともいえる、柳宗理の足跡を残した柳宗理記念デザイン研究所を訪問し、父の柳宗悦と、宗悦を指導した西田幾多郎や鈴木大拙の教えが、1本のストーリーとして繋がりました。


柳宗理記念デザイン研究所
柳宗理記念デザイン研究所にて

金城楼での昼食を済ませ、主計町・ひがし茶屋街を巡り、金沢駅で解散となりました。


ひがし茶屋街・東山にて


今回、弊社ではツアーの理解を深めるためのキーアイテム「金沢で知る日本の伝統とモダンデザイン」ツアー冊子(B5×10P)を編纂・制作しました。

点在し紹介されている石川県出身の哲学者西田幾多郎、仏教研究者鈴木大拙、民藝提唱者柳宗悦の息子で、日本を代表するデザイナー柳宗理、彼らの繋がりにスポットライトを当て、金沢の地で受け継がれてきた日本のモダンデザインの系譜を可視化することに結実しました。詳細は、別途Worksでご紹介したいと思います。

「金沢で知る日本の伝統とモダンデザイン」ツアー冊子
「金沢で知る日本の伝統とモダンデザイン」ツアー冊子(見開部分)

総括

ご多忙の中、WDA終了後金沢ツアーにご参加の皆様には、日本の伝統や文化、精神性に理解を深めて頂けたと思います。


その中で、なぜ工芸が金沢でここまで発展してきたのか?という参加者からの問いについて、今回の御細工所の説明だけでは説明しきれなかったように感じました。より深く理解いただくには、日本の歴史的背景を公家や武家などを含め、すこしマクロな視点で紹介する必要があると感じました。その社会や文化の構造を大まかにでも知ることで、加賀藩前田家の武家文化が残る金沢と、公家文化が残る京都との違いも明確になり、各地域での異なる文化や伝統工芸の発展等についても合点がいくのではないかと考えさせられました。


ツアー中特に印象的だったのは、卯辰山工芸工房や金沢美術工芸大学の新キャンパス内の共通工房を視察した参加者から、『現代のバウハウスだ』という声が聞けたことです。金沢美術工芸大学は間違いなくバウハウスの影響を色濃く残しています。この北陸の中核市でのエクスカーションで、世界のデザインにつながる言葉を引き出せたことで、今回のツアー目的の一つが達成できたように思います。



最後に、WDA2023実行委員長として本当にご多忙の中、アンバサダーを引き受けて頂きました株式会社GKデザイン機構 田中一雄 様、認定NPO法人趣都金澤の坂下様、北口様、そしてJTB金沢支店の高橋様、彩の庭ホテル高田様、山本様、ツアーガイドのターニャ様にはこの場を借りて心より感謝申し上げます。


弊社ではこれからも引き続き、工芸振興、地域振興、デザイン振興を掲げて活動して参ります。



※世界デザイン機構 World Design Organization=WDO約40の国と地域から約170のデザイン関連団体・企業・教育機関等が加盟している世界最大級の国際デザイン団体。前身はICSID(International Council of Societies of Industrial Design)。日本メンバーは、5団体(JIDA、公益財団方針日本デザイン振興会、千葉大学、武蔵野美術大学、多摩美術大久我)


※公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会 JIDA 日本におけるインダストリアルデザイン唯一の全国組織。ICSID創立メンバー。2019年からWDOの名誉会員。


※平成の百工比照 金沢市政120周年記念事業として、平成21(2009)年度から金沢市と金沢美術工芸大学が共同で制作したものです。「百工比照」とは、加賀藩五代藩主前田綱紀が作成した、加賀藩の文化奨励政策をさまざまな工芸資料として収集・整理・分類した工芸標本集です。「百工」は諸種の工芸の意味で、「比照」は比較対照するという意味です。


 

WDA Tokyo2023 Official Excursion Kanazawa Tour

2023.10.30-31 Kanazawa, kahoku,Ishikawa, Japan

writing / photo / Yohei Inagaki

Publisher SyutoKanazawa

planning AgeDesign

Cooperation Sainoniwa Hotel / JTB Kanazawa Branch

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